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福岡高等裁判所 昭和52年(ネ)754号・昭52年(ネ)592号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

一審判決は、別記のとおり、本件埋立地に対する一般侵入車輛の存在の事実と岸壁から転落する客観的危険性の存在を肯認した上、少なくとも、埋立地入口付近に一般人車の立入りを制限する札を掲げるとか岸壁手前に前方海の標示札を掲示する管理上の義務がある旨判示したのに対し、本判決は、判示の事実関係の下においては、管理上の瑕疵を認め難いとして一審判決を取り消した。

【判旨】

一本件埋立地は、県道門司、刈田線と北九州市門司区井ノ浦地区を結ぶ、都市計画幹線道路の東北の海側に位置し、一般車輛が通行する右幹線道路とは二ケ所の入口、即ち二本の取付道路をもつて結ばれている。

二しかしながら、本件埋立地内において、右取付道路に接続されて岸壁に直結するいわゆるA道路は、いわゆる埠頭地区において、港湾道路敷として設置された臨港道路であつて、一般車輛の通行が予定された道路法二条一項一号所定の道路と異なり、専ら、貨物の積降し、荷捌、集積、保管等円滑な港湾荷役に資することを目的として設置されており、本来港湾荷役に関係する特定者以外のものの利用、通行は予定されていない道路である。

三従つて、右A道路及び本件埋立地の安全施設の設置は、専ら船舶の離接岸及び荷役作業の安全確保の観点から計画、施設されるもので、一般車輛の交通に必要な安全施設であつても、右観点上、不要或は有害な施設の設置は許されないことはもちろん、安全施設の整備についても、管理者において、船舶の離接岸及び荷役作業の計画、実情に対応して適宜その要度を判定した上設置すべきものとされていた。しかしながら、本件事故発生当時においては、本件埋立地全体が未だ港湾施設工事の途中であり、港としての機能を開始する段階に至らず、もとより本件埋立地及びA道路に対する一般車輛の進入、通行は全く予測される状態になかつた。

四もつとも、当時、本件埋立地には港湾施設工事等に無関係な一般人が、釣りやドライブの目的で立入ることが、なくもなかつたが、それもさして頻繁とはいいがたい程度のものであつた。

五訴外徳之助車が海中に転落した地点に直結されたA道路を、暗夜、右転落地点に向つて前方を注視しながら東南へ進行すれば、右地点の手前78.7メートルの地点において、対岸の出光興産門司油槽所の灯火が海面を照射していること、従つて進路前方が海面であることを確認することができる。

六訴外徳之助は前記都市計画幹線道路から誤つて本件埋立地に進入し、右出光興産門司油槽所近くで遭難していた訴外栗山車に接近すべく、A道路を東南へ直進し、急停車することなく海中へ転落した。

以上一ないし六の事実が認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

右認定の諸事実に基づいて、被控訴人の賠償責任の成否を検討するに、昭和四六年五月一八日現在における本件埋立地の管理者は訴外北九州港管理組合であつたが、その後昭和四九年四月一日この管理権が同組合から被控訴人に移管され、同時にその権利義務も被控訴人が承継したことは、当事者間に争いがない。

ところで、本件埋立地及びA道路を含むその諸施設の瑕疵性について、控訴人は、本件埋立地の地形上、転落等の事故防止のため、岸壁に車止め、防護柵、或は道路の位置関係を示す標識等を設置するか岸壁線附近に夜光塗料を塗布して岸壁線の存在を示す措置が必要であり、右の設置又は措置の不存在は本件埋立地等の管理上の瑕疵に該る旨主張する。しかしながら、本件埋立地及び臨港道路を含む諸施設の設置目的が本来船舶の離接岸、荷役作業等の安全確保を第一とすることに鑑みれば、不要ないし有害の疑いがあるのみならず、もともと時期的にいつて本件埋立地が未だ港湾施設工事の途中であり、港としての機能を開始する段階に至らず、従つて安全諸施設、特に本件埋立地の本来の用途目的と無関係な一般侵入車のための安全諸施設の検討、設置の段階以前の状況にあつたことに照らせば、控訴人指摘の設置又は措置の不存在をもつて本件埋立地等の管理上の瑕疵に該るとは到底認め難いのであつて、右は本件埋立地等の客観的利用状況が、前認定のとおり、当時において釣り、ドライブ等を目的とする若干の侵入車輛がある状況にあつたとしても、変りはないものというべく、これら一般侵入車の存在まで予想して、立入制限或は前方海の標札を掲示していない不作為を捉えて本件埋立地等に瑕疵があつたとすることは相当でないし、他に本件全証拠によるも、本件埋立地等に管理上の瑕疵を認めるに足る証拠はない。

(高石博良 鍋山健 原田和徳)

<参考・原判決理由抄>

昭和四六年五月一八日午後五時ごろ、訴外栗山昌哲は模型飛行機を飛ばすために、北九州市門司区大字恒見(新門司二丁目)埋立地に自己の自動車で出掛け、午後五時三〇分過ぎに同所に到着した。今にも降りそうな空模様であつたところ、飛行機を一旋回させているうちに雨が降りはじめたので、急いで帰ろうとしたところ、埋立地のぬかるみに自動車の車輪を落し込み、動けなくなつた。同人はハムの免許を有し、右車に無線機を装備していたので、早速これを用いてハム仲間に救助方を依頼した。

訴外徳之助もハムの免許を有し、たまたま右栗山かもしくは同人からの連絡でその仲間が発した電波を傍受して、埋立地で栗山が身動きがとれずに困つていることを知り、これを救うため午後七時過ぎ自宅を自己の軽自動車で出発した。その後午後八時五分ごろ本件埋立地入口三又路にあるガソリンスタンドで、同じくハム仲間の一人で栗山を捜していた内川某と出会つて言葉を交わし、別れて後徳之助は消息を断つた。

翌一九日朝になつても徳之助が帰宅しないことから、母である原告は心配して栗山宅を尋ねたところ、徳之助の行方が不明であることが表面化し、遭難が心配されるに至つた。その後、ハムの仲間を中心に捜索活動がなされ、同日午後九時ごろ本件埋立地の物揚場岸壁から海中に転落しているらしいことが気付かれ、その後の捜索で午後一一時三〇分ごろ、海中において遺体となつて発見されるに至つた。

右認定の徳之助が訴外内川某と別れた時刻、場所及び徳之助が発見された現場との距離等からして、徳之助は右内川と別れて間もなく午後八時一〇分ごろに右現場に転落したものと推認される。

なお、前記各証拠によれば、事故当日は終日雨雲がたれこめ、午後六時ごろから雨が降り初め、もやも発生して、午後八時ごろ本件事故現場付近はかなり見通しが悪かつたものと推認される。

二本件埋立地の事故当時の状況について

<証拠>を総合すれば、本件埋立地のうち後記のエプロンの部分を除く部分は昭和四四年一〇月二五日に竣工し、この中の通路部分の舗装工事は昭和四六年二月一五日竣工し、さらにエプロンの部分は同年三月三〇日竣工し、この埋立地はいずれも北九州市門司区新門司二丁目に編入されたが、事故当時は未だ港としては機能しておらず、荷捌地には砂が積まれ、港湾施設建設工事の途中であつたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

さらに前記甲第四号証、証人栗山昌哲、同河村薫の各証言によれば、本件事故発生当時、本件埋立地には港湾施設工事等に関係のない一般の人々が釣りやドライブのためにかなり出入をしていた事実が認められ、これに反する証人上久保昭吾の証言は採用できず、他に右認定を左右する証拠はない。

三被告の責任について

1 昭和四六年五月一八日当時の本件埋立地の管理者は訴外北九州港管理組合であつたが、その後昭和四九年四月一日、この管理権が同組合から被告に対し移管され、これと同時にその権利義務も承継されたことは当事者間に争いがない。

2 <証拠>によれば、本件埋立地の入口付近には立入禁止、立入制限の掲示等何ら設置されず、その他夜光塗料による標示等も施されておらず、また、現場附近の夜間の照明は、対岸にある出光興産のものだけであつたにすぎないため、一般人はどこまでが一般道路で、どこからが離港道路であるのか皆目わからない状況であり、さらに岸壁近くにおいても通路前方が海である旨の危険標示などが何ら施されていなかつたため、夜間特に雨天等の視界不良の状態が重なつた時には、土地不案内の自動車運転者にとつて岸壁とこれに接する海面との境を識別することが困難ではないとはいえない状況にあつた事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで、原告は車の転落を防止するためガードレール等の防護柵を設置すべきであると主張するが、<証拠>中にもある通り、徳之助が転落した物揚場岸壁に右ガードレール等の防護柵を設けることは、貨物船から貨物の上げ降し等をする荷役作業等を目的として築造された埠頭地区本来の機能を保持するためには無理であるというべきである。

然し乍ら、前記認定事実よりすれば、本件埋立地には前記のとおり一般の人車の通行がかなりあつたもので、一般の道路から容易に侵入できる状態にあり、これらの侵入車が本件埋立地内の舗装道路を前進すれば、訴外徳之助と同様に岸壁から海中に転落する危険性が客観的に存在することは否定し難く、本件埋立地の管理者としては、右危険を避けるため、埋立地入口付近に一般の人車の立入を制限する札を掲げるとか、あるいは岸壁の手前の適当な個所に前方海の標示の札を掲げるなどの措置を少くとも採るべきであつたものと考えられ、かような措置を何らとらなかつた訴外北九州港管理組合には、本件埋立地の管理上の瑕疵があつたものといわざるを得ず、右管理上の瑕疵を訴外徳之助の死とは因果関係があると判断する。<以下、省略>

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